プロジェクトマネージャ試験 午後2 オリジナル予想問題4

問4 プロジェクトが創出した事業価値(ベネフィット)の実現と評価について

プロジェクトマネジメントの成功は、単に計画されたスコープを、定められた期間とコスト(QCDS)の中で完成させることだけでは定義されない。真の成功とは、プロジェクトの成果物(アウトプット)が、ビジネス上の具体的な成果(アウトカム)を生み出し、計画時に期待された事業価値(ベネフィット)を実現することである。

しかし、多くのプロジェクトでは、システム稼働をもってプロジェクトチームは解散し、その後のベネフィットが実際に創出されたかの追跡評価が曖昧になるケースが少なくない。この結果、「プロジェクトはスケジュールどおりに完了したが、期待した効果は出なかった」という事態を招き、経営層と開発現場の間に認識の齟齬を生む原因となる。

これからのプロジェクトマネージャ(PM)には、プロジェクト計画段階から、**「何を」「いつ」「どのように」測定すればベネフィットを評価できるのかを定義した「ベネフィット・リアライゼーション計画」**をステークホルダーと合意することが求められる。さらに、プロジェクト終結後もその評価に主体的に関与し、ベネフィットの最大化に向けた改善活動を主導する、ビジネスパートナーとしての役割が期待される。

あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。


設問ア

あなたがPMとして携わったシステム開発プロジェクトの概要と目標を述べよ。また、そのプロジェクトを正当化するために、**あなたが経営層などの主要ステークホルダーに提示した、具体的かつ測定可能な事業価値(ベネフィット)**の内容について、800字以内で述べよ。


設問イ

設問アで述べた事業価値(ベネフィット)を確実に創出・測定するために、あなたがプロジェクト計画段階で作成した「ベネフィット・リアライゼーション計画」について、以下の点に関する工夫を800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

  • ベネフィットを測定するための具体的な指標(KPI)と目標値
  • データの計測方法、計測期間、及び責任者の定義
  • この計画に対するステークホルダーとの合意形成プロセス

設問ウ

プロジェクト終結後、設問イで策定した計画に基づいて実施したベネフィット測定の実際の結果と、その結果に対するあなた自身の評価を述べよ。また、測定結果を踏まえてあなたが主導した、ベネフィットを最大化するための追加的な活動や改善提案について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。


【上記問題に対する模範解答】

設問ア

私がPMを務めたのは、**マーケティング部門向けの「データ駆動型マーケティング(DDM)基盤構築プロジェクト」**である。当時の当社では、マーケティング施策が担当者の勘と経験に依存しており、効果測定が曖昧であることが経営課題であった。本プロジェクトの目標は、顧客データを統合・分析し、パーソナライズされた施策を自動実行する基盤を構築することであった。

私がプロジェクトの投資対効果を説明するために経営層に提示した**測定可能な事業価値(ベネフィット)**は、以下の2点に集約される。

  1. コンバージョン率の向上:新基盤から配信されるパーソナライズドメールマガジン経由のWebサイトにおける製品購入率(CVR)を、現状の5%から8%に向上させる。
  2. 新規顧客獲得単価(CPA)の低減:最適なターゲットに広告を配信することで、Web広告経由の新規顧客獲得単価を、現状の平均15,000円から12,000円以下に低減させる。

私は、これらの具体的な数値目標をプロジェクトの成功基準として定義することで、単なるシステム導入に終わらない、事業貢献へのコミットメントを明確にした。


設問イ

私は、設問アで定義したベネフィットが「絵に描いた餅」で終わらないよう、プロジェクト計画の一環として**「ベネフィット・リアライゼーション計画」**を独立した文書として作成した。

第一に、ベネフィット測定指標(KPI)と目標値として、CVRとCPAを正式に設定した。その上で、データの計測方法を具体的に定義した。CVRは、Web解析ツール(Google Analytics)を用いて、新基盤から配信されたメールに付与した特定パラメータ経由のセッションを抽出し、購入完了ページへの到達率を計測する。CPAは、各広告媒体の管理画面から取得できる広告費用と、CRMに記録される新規顧客データを連携させて算出する。計測責任者はマーケティング部のA課長とし、計測期間はシステム稼働後3ヶ月および6ヶ月の2時点と定めた。

第二に、この計画のステークホルダーとの合意形成プロセスを重視した。私は、作成した計画書をプロジェクト憲章の正式な添付資料として位置づけ、プロジェクトのキックオフ会議で、スポンサーである営業担当役員に直接説明した。その際、「システムを納品して終わり、ではなく、我々開発チームも稼働後6ヶ月間のベネフィット測定と改善活動に責任を持ちます」と宣言した。これにより、本プロジェクトが単なるIT部門のタスクではなく、事業部門と一体となった価値創造活動であることを明確にし、計画に対する全面的な支持を取り付けた。

この計画により、開発チームの目標は「機能を作ること」から「CVRとCPAを改善する機能を作ること」へと、よりビジネス志向のものへと変革された。


設問ウ

プロジェクトは計画どおりに完了し、システム稼働後3ヶ月の時点で、計画に基づき第1回のベネフィット測定を実施した。実際の結果は、**CVRが6.5%(目標8%に対し未達)、CPAが12,500円(目標12,000円以下に対しほぼ達成)**であった。

この結果に対する私自身の評価は、CPAは達成できたものの、CVRが目標に届かなかった点は真摯に受け止めるべき課題であると判断した。システムという「アウトプット」は提供できたが、事業価値という「アウトカム」はまだ道半ばであると認識した。

そこで、私はベネフィットを最大化するための追加活動を主導した。まず、CVRが伸び悩んだ原因をマーケティング部と共同で分析した結果、新基盤のセグメンテーション機能が高度である一方、担当者がその機能を十分に使いこなせていないことが判明した。これを受け、私は当初計画にはなかった**「データ活用ワークショップ」**という追加のフォローアップ研修を企画・開催した。さらに、分析結果から特に有効と判明したセグメンテーションのパターンを、システムのデフォルト設定として簡易に選択できるよう、小規模な追加改修を保守チームに提案し、実行させた。

これらの活動の結果、稼働後6ヶ月時点の第2回測定では、CVRは目標を上回る8.2%を達成した。この経験から得られた教訓は**「システムの機能提供と、それを使う組織の成熟は別々にマネジメントする必要がある」ということだ。私はこの学びを基に、当社のプロジェクト管理標準に「ベネフィット・リアライゼーション計画書」のテンプレートと、その中に「業務定着化支援タスク」**を必須項目として追加するようPMOに提案し、これが組織のプロセス資産として承認された。

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