受験予備校各社の解答がかなり食い違っているのに驚きました。結構簡単そうに見えて、実はなかなか奥深い良問だったと感じます。私の見立てでは、TACの模範解答だと合格点に達しているのかちょっと怪しいと思っています。その一方で、AASの解答はなかなか良かったです。ぜひ参考にしてみてください。
題意把握
まず題意を把握するとともに、設問間の関連性について確認しておきます。
第1問
革製バッグ業界におけるC社の⒜強みと⒝弱みを、それぞれ40字以内で述べよ。
典型的な強みと弱みについて聞いていますが、わざわざ付ける必要のない「革製バッグ業界における」という枕詞がついています。これは、「他の業界でも言えるような強み(例えば価格競争力がある、等)は除外しなさい」という指示だと解釈できます。とはいえその選別はやや難しいところもあります。
また、後ほど紹介する第4問で「経営資源を有効に活用し」とあるので、第1問で解答する強みを、第4問で活用するという設問間の関連性があると推測できます。したがって、第1問は、第4問の解答方針が固まった後で検討したほうがよいと思われます。
第2問
バッグメーカーからの受託生産品の製造工程について、効率化を進める上で必要な⒜課題2つを20字以内で挙げ、それぞれの⒝対応策を80字以内で助言せよ。
「受託生産品」の製造工程、という制約があります。これはとても重要な制約です。また、「受託生産品の製造工程を効率化する」ことが1つの重要な課題であると把握できます。
第3問
C社社長は、自社ブランド製品の開発強化を検討している。この計画を実現するための製品企画面と生産面の課題を120字以内で述べよ。
「自社ブランド製品」という制約について留意する必要があります。「製品企画面」と「生産面」の2つに分けて記述します。
第4問
C社社長は、直営店事業を展開する上で、自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出すか、それとも若手職人も含めた分業化と標準化を進めて自社ブランド製品のアイテム数を増やすか、悩んでいる。
C社の経営資源を有効に活用し、最大の効果を得るためには、どちらを選び、どのように対応するべきか、中小企業診断士として140字以内で助言せよ。
自社ブランド製品について、2つの戦略のどちらを採用するか選んだ上で、対応策を記述させる設問です。「C社の経営資源を有効に活用し」とあるので、第1問で解答する「強み」と関係しているとわかります。ただし、「最大の効果」というのが何についての効果なのかは、設問を読んだだけではわかりません。
与件の情報整理
経営資源
与件の情報整理時は、強み・弱みと思われるものをすべてピックアップして、解答の候補を広く確保しておくべきだと思います。
事業概要
今回の事例で極めて重要なことが1つあります。それは、第2問、第3問で使われていたキーワードである、「受注生産品」と「自社ブランド製品」という切り口で分けて情報を整理する、ということです。与件を読むと、生産プロセスなどにおいて、「受注生産品」と「自社ブランド製品」がごっちゃになって記載されています。これらのミックスされた情報を正確に切り分けないと、致命的な間違いの連鎖を引き起こし、大失点につながってしまいます。
まず、C社の事業は大きく分けて、受注生産と自社ブランド製品生産の2つあります。売上高構成比は与件から算出できるので、どこかの解答で使えたら使いたいです。また、与件から自社ブランド製品の事業目標が「販売拡大」であり、受注生産品の事業目標は第2問の設問文から「製造工程の効率化」であるとわかります。C社社長は、低価格品である受注生産品から、高価格品である自社ブランド製品へのシフトを進め、自社ブランド製品の売上高構成比を高めたいのだと推測できます。
生産プロセス(生産実施)
先ほど述べたとおり、「受注生産品」と「自社ブランド製品」という切り口で分けて情報を整理しないと、致命的な間違いを引き起こしかねないので、十分に注意しながら情報を整理していきます。与件の横にメモをちょこちょこ書くのではなく、問題用紙の大きな余白に以下のような表を書いて整理すべきです。
解答案と趣旨
第1問
【強み】①熟練職人による縫製・仕上げ等の技術力と、②自社ブランド製品の修理等の顧客対応力。
【弱み】バッグメーカーからの受注生産品が低価格で、それが売上高の80%を占める低収益構造。
強みについては、第4問の解答案を作成した後、それを踏まえて書きました。第4問の解答文字数が140文字ということで、2~3個程度の経営資源を指摘するものと推測できます。一方で第1問の解答文字数が40文字であるため、強みは2個書くのが適当だと思います。TAC解答では「天然素材のなめし革を材料に用い」という枕詞が付いていましたが、この枕詞が加点対象になるとは考えにくいので、その分の文字数を別の経営資源の記述に充てるべきだと思います。AAS解答には「自社ブランド製品の企画・開発、販売および修理」とありましたが、強みの記述としては採点者に伝わりにくい文章だと思います。
弱みについては、第3問で登場する「製品デザイン部門の企画・開発力不足」、第4問で指摘する「技術承継遅滞による若手職人の技術力不足」を除外して、消去法で上記のようになります。つまり、他の設問の解答が終わらないと第1問の解答は書けない、ということになります。
第2問
(a1)生産計画立案後の都度変更を減らす事。
(b1)①生産日程に余裕を持たせた小日程計画を立案し、特急品の割込み等に柔軟に対応する。②資材の調達期間に基づく発注頻度に変更し、資材欠品による計画変更を減らす。
(a2)ボトルネックである縫製工程の負荷を減らす事。
(b2)①資材発注・在庫管理の専門部署を新設し、修理作業は検品工程で行うなどして負荷分散を図る。②部分縫製などの熟練を要さない作業において機械化を進め、作業量を減らす。
上記の生産プロセス表の「受注生産品」に関する情報から、効率化に関する課題をピックアップします。「自社ブランド製品」に関する課題を書いたら不正解となるので、十分な注意が必要です。
TAC解答では、設問文に書かれている「製造工程」という文言を、「裁断、縫製、仕上げ、検品、包装・出荷」の5つの工程に限定する解釈をしていました。その解釈でいくと、与件に書かれている課題らしきところはたしかに縫製工程と検品工程の2つということになりますが、私はその解釈は間違っていると思いました。出題の趣旨を見てみると、「C社の受託製品の受注生産工程について、効率化を進める上で必要な課題を整理し、その対応策を助言する」とあります。つまり、この設問で問うているのは「受注生産工程の効率化」であって、製造工程内で発生している課題だけに限定しているわけではありません。もし製造工程以外の工程が、製造工程に対して非効率な悪影響を与えているのであれば、それも含まれると解釈すべきです。
TAC解答で指摘している課題の1つ「検品工程で発見される手直し作業の削減」というのは、そもそも課題と言えるのかは不明であるとともに、それよりももっと重大な問題である「生産計画の都度変更」を指摘すべきだと思います。なぜならば、生産計画の都度変更は、製造工程全体に混乱をもたらし、作業の非効率化や納期遅延を引き起こすからです。これを改善することで、製造工程全体の効率化につながるので、出題の趣旨に合致しています。また、その課題の対応策としてTAC解答には「仕上げ工程でも、熟練度を考慮して作業割り当て」と書かれていますが、やっていることは現状プロセスと大して変わらず、かえって縫製工程のリーダーの作業負荷を増やしているだけなので、この対応策が効率化に寄与するのか甚だ疑問です。
さて、生産計画の都度変更が発生する原因は2つあり、それが「特急品の割込み等」と「資材欠品」です。よってこれらを解決するための具体策を盛り込めばOKです。また縫製工程は、作業が集中しているという問題点を解決するため、作業を他の工程に分散させるか、作業量そのものを減らす施策を記述します。上記は、AASの解答とほぼ一致しています。
第3問
①製品企画面で、直営店の顧客の声や、旅行雑誌と提携して読者の声を収集して新製品の企画に役立てることで、製品デザイン部門の企画・開発力を高める。②生産面で、完成品の在庫量等の情報を受注予測に活用して予測の精度を高め、欠品・過剰在庫を防ぐ。
第3問は、「自社ブランド製品」についての設問なので、ここで「受注生産品」についての解答を書いたらアウトとなります。「製品企画面」では、弱みである製品デザイン部門の企画・開発力を高めるための具体的施策を書きます。現在はインターネットのオンライン販売情報を活用して企画していますが、その情報源を広げるのが自然な解答かと思います。特に顧客の生の声を収集するのが非常に効果的で、その情報源として「直営店」と「旅行雑誌」をピックアップしました。収集方法まで書く文字数の余裕はないですし、そこまで書く必要はないかなと思います。
また「生産面」では、生産プロセス表にある「欠品・過剰在庫」が重要な問題点です。この問題点が設問文の「開発強化」という言葉と直接的な関連性があるのかはやや疑問ですが、他に指摘すべきことも見当たらないのでこれしかないでしょう。完成品の在庫管理が行われているので、それを受注予測に活用するのが自然な解答だと思います。こちらはAAS解答を参考にさせていただきました。
第4問
自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出すべき。販売拡大の対応策として、①熟練職人の技術力を活かし、若手職人に製造全体のOJTやOff-JTを行って技能承継を図り、生産能力を強化する。また、②修理等の顧客対応力を活かし、バッグのお手入れ講習や他社製品の修理など行い、顧客満足度を高める。
第4問で採用する戦略として、ほとんどの受験生が「自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出すべき」と書いたと思います。本問を攻略する上で重要なポイントは、「最大の効果」というのが何の効果を指すのかを明らかにすることだと考えます。そこで、与件の中段にある「自社ブランド製品と今後の事業戦略」を見てみましょう。
・・・企画・開発コンセプトは、「永く愛着を持って使えるバッグ」であり、そのため自社ブランド製品の修理も行っている。・・・C 社社長は今後、大都市の百貨店や商業ビルに直営店を開設して、自社ブランド製品の販売を拡大しようと検討している。
「最大の効果」というのは、「販売拡大の効果」であるとわかります。高級品である自社ブランド製品の販売拡大によって売上高構成比を高め、ひいては収益力を高めることが重要なのです。したがって、私の解答では「対応策」というのを「販売拡大の対応策」というように明示的に書きました。こうすることで、採点者に対して解答の方向性を宣言し、私自身も解答を書きやすくなります。
もう1つ注意が必要なのは、第3問で述べた製品企画面と生産面についての課題を第4問に入れてはいけない、ということです。第3問も第4問もさっぱりわからず、とりあえず両方に同じことを書いておくという得点アップのための苦肉の策でもない限り、第3問の解答内容と類似することを第4問で述べてはいけません。
さて、本問で活用する経営資源として、1つは「熟練職人の技術力」でよいですが、もう1つをどうするかというところで頭を悩ませました。私は、企画・コンセプトの記述のすぐ近くに書かれた「自社ブランド製品の修理」というキーワードが重要ではないかと考えた次第です。実際、カバンの修理まで行っているというのはかなり手厚いアフターサービスであり、そこまでやっている業界他社は少ないのではないかと思います。そこから発想を広げると、「バッグのお手入れ講習」や「他社製品の修理」というアイデアが出てきました。
以上です。異論は認めます。
最後に。中小企業診断士の2次試験の正解は公表されていません。大手受験予備校の解答が正解とも限りません。したがって、自分が納得できる正解を自分で見つけて、その正解にたどり着くための独自のプロセスを構築するしかないと思います。ただ、受験のプロである大手受験予備校の先生方の考え方は一つの参考になるので、その意味で過去問題集には価値があります。
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