中小企業の休廃業・解散企業の代表者の高齢化は深刻な問題で、事例1にも事業承継の問題が色濃く反映されている気がします。直近の令和4年度で、事業承継の問題が出題されました。
現経営者は、今後5年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。
令和4年度 事例1 第4問(設問2)
この問題で面白いなと思ったのは、「今後5年間」という具体的な期間を示したこと、「権限委譲」や「人員配置」というかなり具体的な指示があったことです。
なぜ5年間なのか?
中小機構の経営ハンドブックを見てみると、「後継者に経営者として必要な能力を習得させたり、後継者が経営権を維持できるように自社株を移転したりする作業には、少なくとも4~5年、長い場合では10年以上かかる場合もある」と記載されています。なるほど、だから5年という指定があったのか、と納得。それくらい時間がかかるってことですね。
後継者教育にも時間がかかるし、自社株移転による経営権の移譲にもそれなりに時間がかかります。
後継者への事業引継ぎで苦労した点は?
みずほ情報総研によれば、親族外承継では「取引先との関係維持」や「補佐する人材の確保」に苦労したという回答が多いです。また、親族内承継では、「後継者を探すこと」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」などが苦労している点だそうです。
後継者を見つけるのも大変だけど、後継者に教育するのも大変だし、後継者をサポートしてあげる人材を探すのも大変。だからこそ、長期的な計画が必要になります。
事業承継とは
中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」によれば、事業承継では3つのものを引き継ぎます。
中小企業診断士2次試験の事例1は人事・組織に関する問題なので、「資産の承継」に関する問題は出しにくいかなと思います。大事なのは「ヒトの承継」ですね。「経営資源の承継」は事例3で問われそうな問題ですが、事例1で聞かれてもおかしくないです。「得意先担当者の人脈」などを引き継ぐことも、とても重要です。
親族内承継と親族外承継の違い
ヒトを承継するといっても、親族内(=家族)か親族外(=従業員)かで、メリデメが変わります。
親族内承継
メリット
- 一般的に社内外の関係者から心情的に受け入れられやすい。
- 一般的に後継者を早期に決定し、長期の準備期間を確保できる。
- 他の方法と比べて、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い。
デメリット
- 親族内に、経営能力と意欲がある者がいるとは限らない。
- 相続人が複数いる場合、後継者の決定経営権の集中が困難。
親族外承継
メリット
- 親族内に後継者として適任者がいない場合でも、候補者を確保しやすい。
- 業務に精通しているため、他の従業員などの理解を得やすい。
デメリット
- 親族内承継と比べて、関係者から心情的に受け入れられにくい場合がある。
- 後継者候補に株式取得等の資金力がない場合が多い。
- 個人債務保証の引き継ぎが難しい。
親族外承継は、さらに社内か社外かに分かれますが、事例1で社外から経営者をもってくるという問題にはしにくいかなと思います。
後継者育成とは具体的に何をするのか?
経営に必要な能力・知識を習得するために、社内・社外での教育を実施します。
社内教育
- 現経営者と後継者との事業についての対話
- 自社の各部門のローテーション
- 責任ある地位に就けて権限を委譲
社内教育では、現経営者が、後継者の成長度合いをつぶさに見てとれるのが利点です。後継者にとっても、現場で働く従業員の気持ちを知り、一体感の醸成にもつながります。
現場経験については、「現場に配属して体に染み込ませる」→「ジョブローテーションで複数部門を担当させる」→「新規事業部門を任せる」→「経営幹部に据えて経営を任せ始める」のように、段階的に進めていきます。
経営に参画することによって経営を学ぶ機会を与えることも効果的で、新規事業の立ち上げを任せるなど、規模は小さくても構わないので、トップとしての責任感を育める機会を与えるとよいそうです。
社外教育
- 他社勤務や子会社経営を通じて、幅広い人脈の形成や経営手法を習得
- 中小企業大学校で実施している経営後継者研修や中小企業支援団体が実施するセミナーへの参加
効果としては人脈の形成が最も大きく、外部ならではの知識や経験を得られます。ただし、社外教育は、問題の設定としては微妙ですね。
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