試験委員がプロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱ(論文)の回答者に期待しているのは、単なる知識の暗記ではなく、自身の経験に基づき、プロジェクトマネージャの立場で主体的に課題を分析し、具体的なマネジメント活動を論理的に記述する能力です。
過去5年間の問題と採点講評を分析すると、期待される要素は以下の3つに集約されます。
1. 自身の経験に基づく「具体的な論述」 📝
試験委員が一貫して最も重視しているのが、実体験に根差した具体性です。採点講評では「経験に基づいて具体的に論述できているものが多かった」という肯定的な評価がある一方、「見聞きした事例を参考にしたと思われる」「作業状況の記録に終始している」といった、当事者意識の欠けた論文は低評価を受けています。
- 期待されていること:
- 自身が直面したプロジェクトの背景や特性(独自性)を明確に説明すること。
- なぜその問題が発生したのか(原因分析)、どう考えたのか(思考プロセス)、そしてどう行動したのか(具体的アクション)を、一貫したストーリーとして記述すること。
- 一般論や方法論の解説に終始せず、「私のプロジェクトでは」「私は〇〇と考え、△△した」という一人称視点での記述。
- NG例:
- 教科書的なマネジメント手法の解説。
- 誰のプロジェクトか分からないような、客観的すぎる状況説明。
- 抽象的で具体性のない対策(例:「コミュニケーションを密にした」だけではなく、誰と、いつ、何を、どのように話したかを書く)。
2. 問題文の要求に答える「設問合致性」 🎯
採点講評では「対応していない項目のある論述、どの項目に対する解答なのか判然としない論述が見受けられた」という指摘が頻繁になされます。設問で問われている項目(例えば、「機会を活かす対応策」と「脅威を抑える対応策」の両方)に対して、漏れなく的確に答えることが強く求められています。
- 期待されていること:
- 設問ア・イ・ウの各項目を正確に読み取り、問われたこと全てに答えること。
- 論文全体の主題(例:「チーム内の対立解消」「コストマネジメント」)から逸脱せず、一貫したテーマで論じること。
- プロジェクトマネジメント活動と、単なる作業報告や技術的な問題解決とを区別して記述すること。
- NG例:
- 設問で問われている一部の項目にしか触れていない。
- テーマが「スケジュール管理」なのに、大半が「品質管理」の話になっている。
- 根本原因の分析を求められているのに、表面的な直接原因の対策しか書いていない(令和5年 問2)。
3. 「プロジェクトマネージャとしての立場」の明確化 🧑💼
試験委員は、受験者がプロジェクト全体を俯瞰し、責任ある立場で意思決定を行うPMとしての役割を理解しているかを見ています。一担当者や技術リーダーの視点ではなく、ステークホルダとの調整やチーム全体のパフォーマンス向上といった、より上位のマネジメント視点が不可欠です。
- 期待されていること:
- ステークホルダとの関わり: 対立の調整、期待値コントロール、合意形成など、外部とのコミュニケーションをどう行ったかを具体的に示すこと(令和4年 問2)。
- リーダーシップ: チームの状態が悪化した際に、メンバーの状況に応じてリーダーシップのスタイル(指示型、支援型など)を使い分けた経験を記述すること(令和6年 問2)。
- 組織への貢献: プロジェクトの失敗経験を、個人の教訓だけでなく、組織全体のマネジメント能力向上にどう繋げるかという視点を持つこと(令和5年 問2)。
- NG例:
- 技術的な課題解決に終始し、PMとしてのマネジメント活動が書かれていない。
- リーダーシップとマネジメントを混同している(令和6年 問2)。
- ステークホルダとの調整を他人任せにしているような記述。
総じて、試験委員は「あなたがPMとして、その困難な状況にどう向き合い、考え、主体的に行動し、プロジェクトを成功(あるいは失敗から学び)に導いたのか」という、あなた自身の物語を求めていると言えます。



中小企業診断士 2次試験 過去問 事例分析一覧 へ