プロジェクトマネージャ試験 午後2 オリジナル例題1

問1 プロジェクト実行中に発生した複合的な問題への対応について

システム開発プロジェクトは、計画どおりに進捗することはまれであり、実行中には技術的な課題やステークホルダーの期待の変化など、様々な問題が発生する。特に、一つの技術的な問題が引き金となり、主要ステークホルダーのプロジェクトに対する信頼を揺るがし、当初の計画を根底から覆しかねない要求に発展するような複合的な問題に直面することがある。

このような状況においてプロジェクトマネージャ(PM)には、表面的な事象(直接原因)の解決に終始するのではなく、その背景にある構造的な問題(根本原因)を究明する分析力が求められる。さらに、技術的な対策と並行して、悪化したステークホルダーとの関係を再構築し、プロジェクトを再び軌道に乗せるための高度なコミュニケーション戦略とリーダーシップが不可欠である。

単に問題を解決するだけでなく、その経験をプロジェクトチーム及び組織全体の教訓として形式知化し、将来のプロジェクト成功に繋げることもまた、PMの重要な責務である。

あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。


設問ア

あなたがPMとして携わったシステム開発プロジェクトの概要と目標、そしてプロジェクト実行中に発生した「技術的な課題」とそれに連鎖して生じた「ステークホルダーからの困難な要求」から成る複合的な問題の具体的な状況について、800字以内で述べよ。


設問イ

設問アで述べた複合的な問題に対し、あなたが実施した根本原因の分析プロセスと特定した根本原因、そして、その根本原因に対応するために策定した技術的・人間的側面(ステークホルダー対応)を統合した具体的な解決策について、800字以上1,600字以内で述べよ。


設問ウ

設問イで述べた解決策を実行した結果と、その結果に対するあなた自身の評価を述べよ。また、この一連の経験から得られた教訓を、今後自身が担当するプロジェクト、及び組織全体のプロジェクトマネジメント能力向上のために、どのように貢献させようと考えたかについて、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。


【上記問題に対する模範解答】

設問ア

私がPMを務めたのは、全社の顧客情報を統合管理する新CRMシステム導入プロジェクトである。目的は、保守切れとなる旧システムの刷新と、散在する顧客情報を一元化し、営業部門のデータ活用を促進することであった。主要ステークホルダーは、ユーザ部門である営業部門、システム開発を担当するIT部門、そしてプロジェクトスポンサーである経営企画部門の3者であった。

プロジェクトは結合テストフェーズに差し掛かった際、複合的な問題に直面した。技術的な課題として、旧システムから新システムへのデータ移行ツールに重大な欠陥が発覚し、移行データのうち約20%に不整合が発生した。これにより、テストスケジュールは2週間の遅延が避けられない状況となった。

この遅延を知った営業部門長から、「このままでは最繁忙期である年末商戦に間に合わない。プロジェクトを一度中断し、現行システムの延命保守に切り替えるべきではないか」という、プロジェクトの存続自体を揺るがす困難な要求が出された。これが、技術的な課題に連鎖して発生したステークホルダーからの困難な要求であった。


設問イ

私は、この複合的問題の解決には、技術課題への対処と並行したステークホルダーの信頼回復が不可欠と判断した。

まず、根本原因の分析に着手した。データ移行ツールの欠陥という直接原因に対し、私と主要メンバーで「なぜなぜ分析」を実施した。その結果、根本原因は「要件定義段階で、旧システムの複雑なデータ構造に関するヒアリングが不十分なまま、安易に外部委託先の標準ツール適用を決定してしまったこと」、つまりスコープ定義と調達マネジメントの甘さにあると究明した。

次に、この分析に基づき統合的な解決策を策定した。

第一に、技術的対策として、外部委託先に任せていたツール改修を、旧システムのデータ構造を熟知している社内IT部門のエース級人材2名を追加アサインした特別チーム(タイガーチーム)で内製化する方針に切り替えた。これにより、改修期間を2週間から8稼働日に短縮できると見込んだ。

第二に、ステークホルダー対応として、営業部門長の不安と不満を解消するためのコミュニケーションを最優先した。私はステークホルダー・エンゲージメント計画に基づき、直ちに営業部門長との1対1の会議を設定した。その場で、まず彼の懸念を課題ログに正式な項目として記載し、真摯に受け止める姿勢を示した。その上で、根本原因が我々の計画の甘さにあったことを率直に認め、謝罪した。次に、上記の技術的対策を「年末商戦に間に合わせるための具体的なばん回策」として提示し、タイガーチームの進捗を日次で彼に直接報告することを約束した。このコミュニケーション計画の修正により、彼を「懸念者」から「再建の監視役」へと関与の仕方を変え、再びプロジェクトの当事者として引き込むことに注力した。

この技術的・人間的側面を統合した解決策を**変更管理委員会(CCB)**に上申し、正式な承認を得て実行に移した。


設問ウ

設問イで述べた解決策を実行した結果、タイガーチームは計画どおり8稼働日でツール改修を完了させ、データ移行は無事成功した。また、日次の進捗報告を通じて、営業部門長との信頼関係は問題発生前よりも強固なものとなり、彼はUAT(受入テスト)において最も協力的なキーパーソンの一人となった。結果として、プロジェクトは当初計画から5日の遅延で完了し、新CRMシステムは年末商戦前に無事稼働を開始した

この結果に対する私自身の評価は、初動の遅れはあったものの、技術と人間の両側面から問題を捉え、統合的な解決策を迅速に実行できた点はPMとして正しかったと考える。特に、ステークホルダーに対し、単なる進捗報告ではなく、原因の開示、謝罪、そして具体的な再建計画をセットで提示したことが、信頼回復の鍵であった。

この経験から、私は二つの教訓を得た。

第一に、**「安易な標準ツールの適用は、独自要件を持つプロジェクトでは重大なリスクとなりうること」**である。この教訓を形式知化するため、私はPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)に働きかけ、「外部ツール利用時の独自要件適合性チェックリスト」を作成した。これは現在、組織のプロセス資産として全社で利用されている。

第二に、**「ステークホルダーの不安は、透明性と当事者意識の付与によって解消できること」**である。この知見を基に、私は今後の自身のプロジェクトにおいて、リスク発生時のコミュニケーション計画をより具体的に策定し、主要ステークホルダーを「報告の受け手」ではなく「解決のパートナー」として巻き込むアプローチを徹底する。

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