問3 外部委託先が開発したシステムの品質保証と組織的なナレッジ定着について
システム開発プロジェクトにおいて、専門技術を持つ外部組織への開発委託は有効な手段である。しかし、委託先の品質管理プロセスが不透明であったり、プロジェクトチームとのコミュニケーションが不足したりすると、納品された成果物が要求品質を満たさず、受入テスト段階で大規模な手戻りが発生することがある。これはプロジェクトの遅延やコスト超過の主因となる。
プロジェクトマネージャ(PM)には、委託先を単なる「発注先」ではなく「プロジェクトの成功を共にするパートナー」として捉え、開発の初期段階から品質に対する共通認識を醸成することが求められる。具体的には、明確な受入基準を設定し、定期的な品質レビューのプロセスを定義・実行することで、問題の早期発見と是正を促す必要がある。
さらに、プロジェクトが終結し委託先が離れた後、自組織のメンバーだけでシステムの保守・運用が継続できなければ、プロジェクトの価値は持続しない。PMは、開発プロセスを通じて、委託先が持つ専門的な知識やノウハウ(暗黙知)を、自組織の組織のプロセス資産(形式知)へと計画的にナレッジ移転させる責務も負う。
あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。
設問ア
あなたがPMとして携わった、主要なシステム開発を外部組織に委託したプロジェクトの概要と目標を述べよ。また、そのプロジェクトにおいて、委託先の品質管理に関して懸念した具体的なリスクと、そのリスクがプロジェクト目標の達成を阻害すると判断した理由について、800字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べた品質リスクに対応するため、あなたがプロジェクト計画段階で策定した**「品質保証」と「ナレッジ移転」に関する具体的なマネジメント計画について、以下の点に関する工夫を800字以上1,600字以内**で述べよ。
- 成果物の品質を担保するための明確な受入基準とレビュープロセス
- 委託先との円滑なコミュニケーション計画
- 委託先からのナレッジ移転を促進するための具体的な仕組み
設問ウ
プロジェクト実行中に、設問イで策定した品質マネジメント計画に基づいて発見された問題と、その問題にどう対処したかを述べよ。また、プロジェクト終結後のナレッジ移転の成果に対するあなた自身の評価と、今後の外部委託プロジェクトにおける改善点について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
【上記問題に対する模範解答】
設問ア
私がPMを務めたのは、モバイルアプリ向けのAI画像解析エンジン開発プロジェクトである。目標は、スマートフォンで撮影された製品の画像をAIが解析し、真贋判定を99.5%以上の精度で行うエンジンを開発し、当社の主力アプリに組み込むことであった。このAIエンジン開発には、当社に知見のない高度な機械学習技術が必要だったため、国内のAI開発専門企業A社に開発を委託した。
私が品質管理に関して懸念したリスクは、**「AIモデルの判定精度が、A社の開発環境では高い一方、当社の本番環境に導入すると大幅に劣化する」**というものであった。A社は技術力は高いものの、スタートアップ企業であり、品質管理プロセスの標準化が未成熟であるという事前評価があった。
このリスクがプロジェクト目標の達成を阻害すると判断した理由は、AIの判定精度という非機能要件は、プロジェクトの最終段階である受入テストまで客観的な評価が困難だからである。もし受入テストで初めて精度未達が発覚した場合、原因究明と再学習に数ヶ月を要し、アプリのリリース遅延という致命的な事態に陥ると考えた。
設問イ
私は設問アのリスクに対応するため、「品質保証」と「ナレッジ移転」を二本柱とする、委託先管理計画を策定した。
第一に、品質を担保する受入基準とレビュープロセスとして、「段階的品質ゲート方式」を導入した。これは、最終納品時だけでなく、「①PoCモデル完了時」「②α版モデル完了時」「③β版モデル完了時」の3つのマイルストーンを設定し、各段階で明確な精度の目標値(例:α版で98%以上)を定義した受入基準を設けるものである。レビュープロセスとして、各ゲートでA社と当社のエンジニアによる合同の精度評価会を実施することを義務付けた。これにより、精度の問題を早期に検知し、軌道修正できると考えた。
第二に、円滑なコミュニケーション計画として、週次の定例会に加え、両社のエンジニアが常時接続する共同のチャットチャネルを開設した。さらに、2週間に一度、私がA社の開発拠点に出向いて対面での進捗確認と技術ディスカッションを行う場を設けた。これにより、仕様の誤解や課題の隠蔽を防ぎ、パートナーとしての一体感を醸成する狙いがあった。
第三に、ナレッジ移転を促進する仕組みとして、「ペア・オペレーション制度」を導入した。これは、A社の開発プロセスにおいて、AIモデルのチューニングや学習データの追加といった重要な作業を行う際には、必ず当社の若手エンジニア1名をペアとして参加させることを契約で義務付けるものである。これにより、ドキュメント化が難しい専門家の「暗黙知」を、実践を通じて当社の組織知へと変えることを目指した。
設問ウ
プロジェクト実行中、「α版モデル完了時」の合同精度評価会において、判定精度が目標の98%に対し96.5%しか出ていないという問題を発見した。原因をA社と共に分析した結果、当社が提供した学習用画像データの一部に、A社が想定していなかった照明のばらつきがあったためと判明した。これは、計画した段階的品質ゲート方式が機能し、問題を早期に検知できた好例であった。私は直ちに、追加の学習データ1,000枚を当社側で準備・提供する是正処置を行い、β版の段階では目標精度をクリアすることができた。
プロジェクト終結後のナレッジ移転の成果に対する私の評価は、極めて高かったと考えている。ペア・オペレーション制度を通じて、当初はAIに関する知識が乏しかった当社の若手エンジニア2名が、最終的には自力で小規模なモデルのチューニングを行えるレベルまで成長した。結果として、プロジェクト完了後、A社の支援なしに当社単独で継続的な精度改善サイクルを回せる体制が構築できた。
この経験から得られた今後の改善点は、「委託開始前の相互理解の深化」である。今回は実行中にデータ品質の問題が発覚したが、本来であれば契約前に、A社が当社のデータ特性をより深く理解するための「事前アセスメント期間」を設けるべきであった。この教訓を基に、私は当社の「外部委託先選定プロセス」を改訂し、「技術評価」だけでなく「業務・データ理解度評価」の項目を追加するようPMOに提案し、これが組織のプロセス資産として承認された。
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